韓国の俳優としては初のオスカー受賞となったユン・ヨジョン。
本国韓国ではこの度の受賞を記念して、映像資料院(シネマテークKOFA)で出演作品18本の特集上映が開催、更にはデビュー作『火女』が50年ぶりに再上映されている。
デビュー55周年の大女優ユン・ヨジョンは俳優仲間や芸能関係者からはユン先生と呼ばれているが、彼女の周辺の知人たちは親しみを込めて「ユン・セム」と呼んでいる。(ユンは彼女の苗字、セムは韓国語で先生(ソンセンニム)の略語である)

ユン・ヨジョン デビュー50 周年記念パーティー
所属事務所が最近アップした、デビュー50 周年に催された記念パーティーの YouTube 映像は何と 120 万回!も再生され、その注目度がうかがえる。映像には韓国のエンタメ界をリードする演出家 ナ・ヨンソク、放送作家ノ・ヒギョン、映画監督イ・ジェヨンほか、カン・ドンウォン、キム・ヘス、イ・ソジンなどの有名俳優たちの姿も。
ユンヨジョン特集上映ポスター 韓国映像資料院
デビュー当時のユン・ヨジョンは?
ユン・ヨジョンは、1966年 当時新しい職業であったにテレビ局のタレントに応募し、俳優活動を始める。当初はテレビドラマに出演するものの、当時は見た目の美人顔が好まれる時代で、彼女には脇役しか回って来なかったという。まもなく彼女は移籍したMBC放送局のドラマ「チャンヒビン」に出演し話題を集めることとなる。独創的な演技と個性的な台詞回しが評価されたのは、キム・ギヨン監督の『火女』(1971年)の出演からだとされる。平凡な家庭を破滅に追い込む破壊力を持った“顔”が必要とされたこの映画の主人公に抜擢されたユン・ヨジョンは、第4回シチェス国際映画祭で主演女優賞を受賞する。審査員は、後に彼女が映画初出演だったことを知らされて驚いたという。
この賞を私にとっての初めての監督、キム・ギヨン監督に捧げたいと思います。
彼は天才的で私の最初の映画を一緒に作りました。
彼がもしまだ生きていたら、きっと誇らしく思ってくれたと思います。
2021アカデミー賞授賞式のスピーチにて
映画は国内で大ヒットとなり翌年には『虫女』が制作され、ユン・ヨジョンは広告モデルにも起用さ れる有望株とされたが、突然結婚を発表しアメリカに渡った。
13 年間の結婚生活を終え、二人の幼い子供を女手一人で育てることになった彼女は 85 年韓国 に帰国し俳優に復活するが、かつて注目の的であったユン・ヨジョンに対する世間の風当たりは冷 たく、離婚した女優は誰からもキャスティングされることがなかった。それでも誰もが敬遠する“嫌 われ役”を引き受け、徐々に独立した女性、時代の先を行く強い女性像を確立していった。
二人の息子に感謝します。私を働きに行かせる子たちに。 これが、ママが一生懸命働いた結果よ。
2021アカデミー賞授賞式のスピーチにて
ユン・ヨジョンは、2003 年イム・サンス監督の『浮気な家族』に出演する。家族全員が誰かと浮気 をしているというセンセーショナルな題材の本作で浮気する姑を演じ、釜山映画評論家協会、大韓 ⺠国映画大賞などで助演女優賞を受賞し、映画界にも返り咲いたのだ。本作以降、彼女はイム監督 の全ての作品に出演している。55 年の演技人生で 97 本のドラマに出演したユン・ヨジョンは
60 が過ぎたら自分が共感できる役を演じてみたい

『6人の女優たち(仮題)』(2009)
“国民的母親像”を敬遠するユン・ヨジョンが彼女自身として『6人の女優たち(仮題)』(2009)に出演。ファッション誌ヴォーグの撮影に集められ女優らが火花を散らすセミドキュメンタリーで、チェ・ジウ、キム・ミニらと共に韓国の女優として生きる彼女たちの赤裸々な一面を切り取った本作は、イ・ジョンジェ主演の『情事』やペ・ヨンジュン主演の時代劇『スキャンダル』の演出で知られるイ・ジェヨン監督が、彼女たちの魅力を十分なほどに引き出している。
日本で未公開の本作は近々上映される予定である。

『6人の女優たち』の後に、ユン・ヨジョンと年老いた女優の一代記をやるつもりでいたイ・ジェヨ ン監督は、ニュースで高齢相手の売春婦、バッカスおばさんのことを知る。女優の人生より興味深 いと思うと一気にシナリオは書き上がったが、多少の心配はあった。「今回はちょっと過激な役です」 と出演を持ちかけると、ユン先生は全く気にしない様子だったという。体を売って生をつなぐが、 安楽死を手助けするという女性に扮した『バッカス・レディ』では、本作で3本目となるイ・ジェヨ ン監督の新たなチャレンジをしっかりと受け止める貫禄の演技を披露、モントリオールファンタジ ア映画祭で主演女優賞を受賞した。

私は仕事をするとき、歳をとった今では作品性よりかは人を見て決めます。 私がイ・ジェヨン監督の性格を知っているから、このような題材を極端に刺激的に描くのではなく、 温かいものとして作るだろうという信頼がありました。
『バッカス・レディ』出演当時のインタビ ュー
普段から若いスタッフや共演者とも隔たりがなく面倒見が良いことで知られているユン・ヨジョンは、若い監督や作家には独特な役が必要な時、チャレンジしたい時の最良のパートナーである。
私を必要とする人と仕事をしたい。それは、私には贅沢なこと。

『チャンシルさんには福が多いね』
「シナリオが特別に良かったとか、私の演出に信頼を寄せた訳でもなくて、あの子が大変な時期だから何とかしてあげなくては」と、ホン・サンス映画のプロデューサーと出演者として知り合った10年来の友人、キム・チョヒが映画づくりを辞めないようにユン・ヨジョンが引き止め、『チャンシルさんには福が多いね』(キム・チョヒ監督)は生まれた。
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『3人のアンヌ』ホン・サンス監督
アカデミー賞のノミネーターには同伴者一人まで授賞式に参加出来るそうだ。ユン・ヨジョンにはアメリカ在住の二人の息子がいるが、今後の韓国映画のために肌で感じてしっかり経験するようにと、『ミナリ』での娘役 ハン・エリを共だって授賞式に参加した。
過去、私に与えられた役は小さい役ばかりで苦労しました。
また多くの人は、私を好んでくれませんでした。
いっそ俳優をやめてアメリカに戻ることも考えました。
でも私はまだ生きているし、今は演じることを楽しんでいます。
彼女の演じるキャラクターは、当時の一般的な感覚よりも一味違うものとなって存在している。年齢と常識にとらわれず、時代の空気感を上手にまとうユン・ヨジョンの今後の出演作品に期待が高まる。
主な出演作品
映画タイトル | 製作年・監督 | VOD/レンタル |
---|---|---|
火女 | (1971年/キム・ギヨン監督) | |
虫女 | (1972/キム・ギヨン監督) | |
ウーマン・レクイエム | (1985/パク・チョルス監督) | |
天使よ、悪女となれ(死んでもいい経験) | (1990年/キム・ギヨン監督) | |
浮気な家族 | (2003年/イム・サンス監督) | ぽすれん(¥55) |
6人の女優たち | (2009年/イ・ジェヨン監督) | 上映予定 |
ハウスメイド | (2010年/イム・サンス監督) | U-NEXT(無料トライアル) |
3人のアンヌ | (2011年/ホン・サンス監督) |
U-NEXT(無料トライアル) |
蜜の味〜テイスト・オブ・マネー | (2012年/イム・サンス監督) |
U-NEXT(無料トライアル) |
ブーメラン・ファミリー | (2013年/ソン・へソン監督) |
|
チャンス商会〜初恋を探して | (2015年/カン・ジェギュ監督) |
ぽすれん(¥105) |
君が描く光 | (2016年/チャン監督) |
U-NEXT(無料トライアル) |
バッカス・レディ | (2016年/イ・ジェヨン監督) |
|
それだけが、僕の世界 | (2017年/チェ・ソンヒョン監督) |
|
藁にもすがる獣たち | (2018年/キム・ヨンフン監督) |
U-NEXT(無料トライアル) |
チャンシルさんには福が多いね | (2019年/キム・チョヒ監督) | 上映中 |
ミナリ | (2020年/リー・アイザック・チョン監督) | 上映中 |
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