第3回 映画『パラサイト』に隠された映画の秘密 シーズン1「本当に知りたい韓国映画」#3

By Professor Ken with Tao and Madoka
illustration By LEE Fani

ところで、『パラサイト』のどこが一番、驚いた?

家政婦がやってきて、地下に通じる扉を開けた瞬間ですかね…

そうだよね。『パラサイト』という映画が特別な映画になった決定的なポイントは、あの地下家族の存在だね。


そもそもポンジュノ監督は当初、フランス語の写し絵を意味する“デカルコマニ”(Décalcomania)というタイトルで演劇の題材としてこの物語を書き始めたらしい。
裕福な家族と貧しい家族の対称を成す4人家族が頭に浮かんだんだ。そして映画のシナリオとして書き上げる最終盤になって、一つ屋根の下に第三の家族の存在を思い付いたらしい。

信号待ちしてる時に、家政婦がインターフォンを鳴らすシーンを想像して、一気に半地下家族対地下家族のサバイバルを連想したんだ。


 この構図が今までになかった、特別なストーリーに繋がったのは確かだね。

すごいヒラメキですねー

彼のミックスジャンルの傾向は2003年に撮った『殺人の追憶』という映画でも顕著だった。
殺人の追憶
2000年代NO.1の外国語映画は「殺人の追憶」記事へ

韓国の地方都市で刑事たちが未解決の連続殺人事件を捜査する映画だけど、普通刑事物って、刑事が事件を解決して終わるんだけど、この映画では誰も事件を解決しないんだ。

観ている間中、ハラハラドキドキしたりの連続だけど、見終わっても真犯人は判らないんだ。でも観客は犯人を知った爽快さよりもっと深くて重い歴史の真実を知るって仕掛けになっている。

同じ年に日本で大ヒットした『踊る大捜査線』と同じ刑事物ってことで比較する人も多かったけど、映画的な方向性が全く違う作品だから比較にならないと思うな。

観ました。面白かったな〜

ポン・ジュノ監督の2006年の『グエムル 漢江の怪物』は、単なる怪獣映画じゃなくて、まるでウエスタンのような復讐劇を通して在韓米軍の存在に疑問を投げかけている。


怪獣映画の形を借りた徹底的な反米映画とも言える。弱者を助けようとしない社会と社会システムを痛烈に描いている。この映画を、もし沖縄でリメイクしたら最高にビビッドな映画になるだろうなと妄想したな〜。

 それはいいとして、続く2009年の『母なる証明』は殺人の容疑で捕まった息子の無罪を信じて奔走する母親のサスペンス映画と言ってしまえば、何となく見当は付くんだけれど、彼は社会学者のような視点でセンチメンタルな結論を排除してしまった。
母親という存在そのものが偉大だと称えると同時に、本能的で盲目的だと教えているんだ。
 原題は『Mother』だけど、日本語タイトルが珍しくいいね。『証明』って言葉が観終わった後により深く心に響くから。


 何よりも三作品共、批評家から絶賛された上、興行的にも大ヒットしている事が凄いね。映画監督なら誰もが目指す理想を体現しているとも言える。

彼の今までのキャリアの集大成が『パラサイト』という「ミックスジャンル」の傑作を産んだとすると、とても感慨深いね。
世界中の映画ファンは今や彼の映画を「ポンジュノ・ジャンル」とまで言うほどなんだ。凄い理由が解った?

凄いのはよく分かったんですけど、何かオチが残酷じゃないですか?
そう言えばポン監督の映画ってよく雨が降ってますよね。

ほうー、雨が気になったかい?この映画は雨だけじゃなく、バケツの水、汚水、洪水といった具合に大量の水が現れるよね。

それに観賞用の謎の石が家に持ち込まれて、この鑑賞石が不気味な役割を果たすよね。


また地下を結ぶ階段や豪邸の二階に通じる階段が、それぞれの階級を効果的に見せるよね。



監督はこういった水、石、階段といったメタファーを上手く使って映画を文学的に昇華させている。

メタファー…ですか?

ドイツ語で比喩という意味だよ。

名作になる映画というのは、こういったメタファーが大切であって、娯楽映画と芸術映画の境目とも言える、ある意味道標のようなモノだ。

メタファーを理解する事が映画を本当に理解する事に繋がるんだ。例えば、この映画には完全な善人も、完全な悪人も登場しない。全員がグレーゾーンにいる人間たちだ。


彼らを分けるのは階級という曖昧な物差しよりもっと残酷な「線」だったり「匂い」だったり、明確な「計画」なんだ。登場人物はそれらの言葉を度々、意識的に使っているだろう。

監督は映画全編を通して、社会の不条理を視覚的、文学的、そして立体的に観客に刷り込んでいるんだ。
 だから、君が最初に言った通り、『パラサイト』という映画は極めて恐ろしく残酷な映画なんだ。

あの〜関係ないかもしれないんですけど、『パラサイト』ってオーディションやったんでしょうか?

彼は残念ながらオーディションが嫌いらしよ。


 彼は事前に俳優を舞台や映画でチェックしておいて、満を持して声をかけるタイプらしい。残念だね〜


彼の映画に出るには、何か他の作品で爪痕を残さなきゃね。

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