第2回 映画『パラサイト 半地下の家族』って結局、何が凄いの? シーズン1「本当に知りたい韓国映画」#2

By Professor Ken with Tao and Madoka
illustration By LEE Fani

観ていてめちゃくちゃ怖かったんですけど、『パラサイト 半地下の家族』って、何がそんなに凄い映画なんですか?

うん、そうだね〜。怖かったか…ところどころ怖いよね。
ただ、ところどころオカシクなかった?笑えたでしょう?


『パラサイト 半地下の家族』は一言で言うとトラジックコメディー(悲喜劇)だと言えるだろうけど、『パラサイト 半地下の家族』って映画が凄いのは、映画で表現出来る色んな感情が一本の映画に凝縮されているって事だよ。


特徴的な要素を恣意的に取り出した映画をジャンル映画と言うけど、そういった意味では『パラサイト 半地下の家族』は「ミックスジャンル映画」と言える。


予測のできないドキドキ感を感じるサスペンスの要素はもちろん、コメディー、アクション、ノワール、ホラー、ヒューマンドラマ、そして社会的なメッセージと様々な表現にチャレンジして、それが全てにおいて高いレベルで成功している。
アクション映画ホラー映画ヒューマン映画

 
 映画館に座っている2時間12分の間で、これほど多種多様なエモーションを体験させる映画は非常に稀だと思う。


公開前にロサンジェルスで行われた上映会で、観客の一人が「感情のジェットコースター」だとコメントしたんだが、言い得て妙だった。
 

まずはこの点が映画大国アメリカでも文句無しに絶賛された要因だね。

ふーん、なんでそんな事が出来たんですか?今までにはなかったの?

様々なジャンル映画にチャレンジして成功した監督はいる。


 ジョージ・スティーブンスって監督はフレッド・アステアとジンジャー・ロジャース共演のミュージカル映画で成功したが、戦時中は戦場ドキュメンタリーを撮ったし、50年代には西部劇の傑作とされる『シェーン』や、アメリカの格差社会を冷徹に描いた文芸ドラマの『陽の当たる場所』でアカデミー賞を受賞した。


 ヨーロッパに目を向けると1950年代に活躍したフランスのジャックベッケルって監督は児童映画の『アリババと40人の盗賊』からラブコメディの『幸福の設計』、晩年には脱獄映画の傑作と言われる『穴』というサスペンス映画を撮った。


様々な異なったジャンル映画で成功を収めた監督はいた


 今は世界中の映画が自由に観れる時代だから分析も模倣も容易に出来る。監督は様々なジャンルを撮れるノウハウを手にしたからね。


 とは言え、一本の映画に複数ジャンルを詰め込むと下手をすると大失敗して駄作になってしまう。勿論、彼には特定のジャンルを撮っている意識はないと思うけどね。

じゃあ、何を意識して監督してるんですかねー

ここは先ず、それをやってのけた脚本、監督のポン・ジュノがどんな人なのかを説明する必要があるね。

彼は韓国の延世大学社会学科を卒業後、韓国映画アカデミーに再入学した秀才で、386世代の監督だ。


386世代は、いまから20年位前に台頭してきた世代で、韓国社会の民主化を推し進めてきた原動力になった人たちを指す言葉なんだ。


意味は当時30代で、80年代に大学に通い、60年代に生まれた人たちの総称だね。

やっぱり秀才なんですねー

特にユニークなのはポン・ジュノ監督が漫画家志望だったという点が挙げられる。


彼は浦沢直樹や沖浦啓之を尊敬していて、映画のシナリオを書くために長い間様々な事を調べるのは勿論、撮影前に全カットを細かく描き込んだ絵コンテを書くことでも有名なんだ。


韓国語版と英語版で出版された『パラサイト 半地下の家族』の絵コンテ集を見ると、そのディテールの細かさや細部への拘りがよく解る。


 彼は自身でも度々明してるように今村昌平やヒッチコックに止まらず、アンリ・ジョルジュ・クルーゾーやクロード・シャブロルといった玄人好みの監督作品にもハマった、正真正銘の映画オタクだ。



だから様々なジャンル映画や漫画の世界観を追い求める過程で、彼はやりたい事を物語の中に可能な限り詰め込むようになった。


逆に言えばやりたい事がありすぎるから、シナリオを書くだけでなく絵コンテまでも自分で書き上げるんだと思う。

絵コンテの出来栄えも極めてハイレベルだから、これを見るだけでも楽しいよ。

パラサイト半地下の家族絵コンテ
ポン・ジュノ監督の直筆絵コンテ

スゲー!!!

スゴイ、絵も上手いんですね〜

彼自身は全カットのコンテを作るのは自分の不安を取り除くためだと言っているけど、今回は美術監督と緊密に話し合って、撮影の60%以上を占める豪邸の内部をPC上に3Dで再現したんだ。


豪邸の内部をバーチャルに検証しながら絵コンテを書いたらしい。これにはタランティーノ監督も驚いたらしいよ


これほど精巧な絵コンテを貰ったメインスタッフは、それを基にイメージを共有して準備に取りかかれるから非常に効率的だよね。


ただ周囲からはディティールが細かすぎるから「ポンテール」って呼ばれてるらしいよ。

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